げられ、オレが名人ともてはやされていると聞いても、それすらも別天地の出来事であった。
オレははじめて高楼から村を眺めた。それは裏の山から村を見下す風景の距離をちぢめただけのものだが、バケモノのホコラにすがりついて死んでいる人の姿を見ると、それもわが身にかかわりのないソラゾラしい眺めながらも、人里の哀れさが目にしみもした。あんなバケモノが魔よけの役に立たないのは分りきっているのに、そのホコラにすがりついて死ぬ人があるとは罪な話だ。いッそ焼き払ってしまえばいいのに、とオレは思った。オレが罪を犯しているような味気ない思いにかられもした。
ヒメは下界の眺めにタンノーして、ふりむいた。そして、オレに命じた。
「袋の中の蛇を一匹ずつ生き裂きにして血をしぼってちょうだい。お前はその血をしぼって、どうしたの?」
「オレはチョコにうけて飲みましたよ」
「十匹も、二十匹も?」
「一度にそうは飲めませんが、飲みたくなけりゃそのへんへぶッかけるだけのことですよ」
「そして裂き殺した蛇を天井に吊るしたのね」
「そうですよ」
「お前がしたと同じことをしてちょうだい。生き血だけは私が飲みます。早くよ」
ヒメの
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