中をみてたじろいだ。ヒメだけはたじろいだ気色がなかった。ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、下にも無数の骨が落ちてくずれていた。
「みんな蛇ね」
ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。ヒメは頭上に手をさしのばして垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。その白骨はヒメの肩に落ちくずれた。それを軽く手で払ったが、落ちた物には目もくれなかった。一ツ一ツが珍しくて、一ツの物に長くこだわっていられない様子に見えた。
「こんなことを思いついたのは、誰なの? ヒダのタクミの仕事場がみんなこうなの? それとも、お前の仕事場だけのこと?」
「たぶん、オレの小屋だけのことでしょう」
ヒメはうなずきもしなかったが、やがて満足のために笑顔は冴えかがやいた。三年昔、オレが見納めにしたヒメの顔は、にわかに真剣にひきしまって退屈しきった顔であったが、オレの小屋では笑顔の絶えることがなかった。
「火をつけなくてよかったね。燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」
ヒメは全てを見終ると満足して呟いたが、
「でも、もう、燃してしまうがよい」
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