目がさめたら、戸をおあけ」
「きいた風なことを言うな。オレが戸を開けるのは目がさめた時じゃアねえや」
「では、いつ、あける?」
「外に人が居ない時だ」
「それは、ほんとね?」
オレはそれをきいたとき、忘れることのできない特徴のあるヒメの抑揚をききつけて、声の主はヒメその人だと直覚した。にわかにオレの全身が恐怖のために凍ったように思った。どうしてよいのか分らなくて、オレはウロウロとむなしく時間を費した。
「私が居るうちに出ておいで。出てこなければ、出てくるようにしてあげますよ」
静かな声がこう云った。ヒメが侍女に命じて戸の外に何か積ませていたのをオレはさとっていたが、火打石をうつ音に、それは枯れ柴だと直感した。オレははじかれたように戸口へ走り、カンヌキを外して戸をあけた。
戸があいたのでそこから風が吹きこむように、ヒメはニコニコと小屋の中へはいってきた。オレの前を通りこして、先に立って中へはいった。
三年のうちにヒメのカラダは見ちがえるようにオトナになっていた。顔もオトナになっていたが、無邪気な明るい笑顔だけは、三年前と同じように澄みきった童女のものであった。
侍女たちは小屋の
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