ろへ武者振りつくと勢あまつて二人諸共深深と黒い土肌へめり込んでしまつたのです。顔の半ぺたを土にしてフウフウと息をつきながら夢からさめたもののやうにポカンとしてゐるこの周章て者に僕は亦とぎれとぎれに詫を述べ、如何なる必然と偶然の力がかかる結果を招致するに至つたものであるかといふことを順を追ふて説明いたしました。
 ――結局君はこの村に貸間亦は貸家が存在するであらうかといふことを僕にききたかつたんだね。
 と、話してみれば物分りのいい男で、心臓の動悸がやうやくに止つたらしく、こう(顔の半ぺたを土にして)反問するのです。
 ――さうです、何か御心当りがありますかしら。
 と、僕はもうひどくこの周章て者に好意を感じ出してゐたのですが、物のはづみで拾ひあげた大根をなで廻しながらこんな風にきいたのです。するとこの男は僕の言ふことが呑み込めないのでせうか(えて哲人は食物を食べるその理窟さへ分らないものだと言ひますから)怪訝な顔をして、
 ――無いこともないが、かりにあつたとして、君はそれをどうする心算《つもり》なんだ。
 といふのです。
 ――無論僕が住むんですがね。
 ――う、ぶるぶる、止した方が
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