みはずすと窖《あなぐら》へ宙づるしにブラ下つたまま寝ちまふこともままあるのだ。そんな朝、目が覚めると、頭の下から足の方へ登つてゆく太陽を天麩羅だらうかと眺めるんだが……
酒は憎むべき茨ぢやよ、全く俺は毎夜ダブダブ酔つ払つて呪ひをあげるのだけれど――冒頭にお話しした聖なる禁酒の物語はペンペン草の夏ではない、頑として木枯の真つただ中に(うう、ぶるぶる)行はれたのぢやよ。それはそれは悲痛なものであつたのだが、まあきき給へ。
――愛する行者よ。と、俺は一夜鬱積した酒の呪《のろい》にたまりかねて、幾杯目かの觴を呑みほしたとたんに、憎むべき行者の楽天主義《オプチミスム》を打破しやうと論戦の火蓋を切つたのだ。
――愛する行者よ、鉢顛闍梨《パタンヂャリ》の学説は不幸にしてイマヌエル・カント氏に先立つて生れたるが故にここにたまたま不運なる誤謬を犯すに至つたものであることを、余は尊公のために歎くものぢやよ。思ふに尊公等岩窟断食の徒は人間能力の限界について厳正なる批判を下すべきことを忘却したがために、浅慮にも人間はつまり人間であることを忘れ恰も人間は何でもない如くに考へ或は亦人間は何でもある如くに考
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