木枯の酒倉から
――聖なる酔つ払ひは神々の魔手に誘惑された話――
坂口安吾

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)周章《あわ》て者

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その都度|瞠若《どうじゃく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+奄」、第3水準1−15−6]
−−

[#5字下げ]発端[#「発端」は中見出し]

 木枯の荒れ狂ふ一日、僕は今度武蔵野に居を卜さうと、ただ一人村から村を歩いてゐたのです。物覚えの悪い僕は物の二時間とたたぬうちに其の朝発足した、とある停車場への戻り道を混がらがせてしまつたのですが、根が無神経な男ですから、ままよ、いい処が見つかつたらその瞬間から其処へ住んぢまへばいいんだ、住むのは身体だけで事足りる筈なんだからとさう決心をつけて、それからはもう滅茶苦茶に歩き出したんです。ところが案外なもので(えてして僕のやることは失敗に畢《おわ》るものですから)、見はるかす武蔵野が真紅に焼ける夕暮れといふ時分に途方もな
次へ
全25ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング