寒中というムリをいとわず、命日にタケノコ料理とタケノコメシをつくり、近親だけ集めて法要をいとなむ。どうも女房をなくして以来、鬼の心境が変ったようだともっぱらの評判であった。
 当日魚銀が才川家へおさめたものは料理の折ヅメ十四人前。タケノコメシが五升。十二時十分前におさめた。つまり昼メシだ。被害者がその折ヅメを才川家で食ったとすれば午すぎに殺されているのだが、ミヤゲに持ち帰って夕食に食っているかも知れない。折ヅメ料理にもタケノコの煮ツケがあった。
「折ヅメ十四人前か。その十四人の名を探りださなければならんぞ」
 まさか才川家へ行って訊くわけにいかない。ヘタなことをして警戒されると先輩に怒られたり笑われたりしなければならぬ。幸いにまだ三日目、あと七日もあるから、あせらずに自力でやれるところまでやってみようと決心した。
 その法要の坊さんは報光寺の弁龍和尚ときいたからそのへんから、当ってみることにした。うまいことに、この禅坊主はクッタクのないお喋りずきの老坊主で、楠が私は芝居作者の弟子の者で、師匠が今回鬼の才川平作に似せて鬼高利貸しの改心劇をつくるについて、才川家の内情を若干御教示ねがいたい
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