、石松が勘当となれば、相続人のオハチが自分に廻ることになり、まさにその事の有り得るチャンスの気配が濃厚でしたから、能文は計画を立てておいて、加十を殺して予定のバラバラ作業を行った。或いは京子も片棒担いでるかも知れませんよ。鬼の子は鬼でフシギはありませんし、人間はもともと鬼になり易いです。京子は十二年前に勘当された加十に兄者人《あにじゃびと》としてのナジミがないから、他人に財産をとられるような怒りや呪いがあったかも知れません。バラバラのコマメな作業がかねての計画としても一人の手に余るようですから」
 そして、能文が捕われ、訊問の結果は京子の非常に積極的な共犯が明らかとなった。
「女を甘く見てはいけませんよ。女は心がやさしくて、気が弱くて、ケンカが弱くて常に平和を愛するかよわい動物だなんて、大それた逆説の支持者となってはいけません。それを信用してはタンテイはつとまりませんよ」
 と新十郎はあとで顔をあからめて楠にささやいた。



底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
   1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第六巻第一〇号」
   1952(昭和27
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