から訊きだすことができたことは、加十の上京後、その帰りをまる二ヶ月の間待ちくらしたのち、ついに不安を抑えきれずに表向き禁制と知りつつも才川家へ問い合わせの手紙をだしたのに返書があって、勘当中の加十が当家に居る筈はないというアッサリした文面でしたという。また、ついにたまりかねて上京して才川家を訪ねてみると、応待にでて、返書と同じように勘当中の加十は当家に居るべき道理がないとアッサリした言葉を与えて追い返したのは小栗能文でしたという。この返答は異様ですね。なぜなら、表向き勘当ながら内容が次第にそうでないことを能文は心得ている筈だからです。まず何よりも、加十の行方不明に対して親身のものにせよ事務的なものにせよ心配を一ツも見せないことが、この男の身分としては更に異様ですね。私が石松の折ヅメを貰った婦人に期待した返答も、これと同じことを裏附ける事実、つまり放蕩者の石松がだらだら酒をのんだり泊ったりで、バラバラ作業のヒマがありッこなかったという裏附けだったのでしたが、生憎《あいにく》この婦人はタケノコ料理に興味がない超人でしたから、折ヅメをもらった特定の一日にてんで記憶がなかったのです。加十を殺し
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