ンビールを傾けつつ、楠は新たに捉えた発見とその確かめた結果を語り、新十郎はそれぞれに批評を加えて、うむことがない有様だ。
「で、捉えた発見を確かめて、取捨したあげく、こまかな事実が積り積って自然に何かの形をなしましたね」
 新十郎にこう訊かれて、楠はちょッと返答をためらったが、
「確かめて得た物をつないで一ツの物にまとめるにはまだムリが多すぎるのです。特にボクが重大と見て今もこだわっているのは石松から折ヅメを貰った女の記憶ですが、その婦人から得た答は、そんな古い記憶は今さら思いだすことができませんという返答でして、それ以上は得られないのです。そのためにボクの推理は体をなしません」
「私もその婦人からはあなたと同じ返答しか得られませんでしたよ。ですが、そのほかにも一ツのことが分りました。婦人は折ヅメを貰ったことは確かに覚えていたのです。ですが、この折ヅメの件はここで一応壁にぶつかってしまったものと仮定して、これに代るべき他の発見が捉えられませんでしたか」
「そのような自在な頭のハタラキは思いもよらぬことです」
「では私がその壁にぶつかったとき、代りに捉えた発見を申しましょう。私たちは加十
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