確実に知っていると判っているのは平作だけですね。こんな風に確実なものと、可能性のものとをハッキリしておくことは、手順としては大そう大切なことなんですよ。お直のクダリはこれぐらいにして、次は目黒の百姓に化けてタケノコを売りこみに才川家へ赴いた件。これは傑作だな。百姓に化けることはどのタンテイもできますが、こんな風に会話を交すことはできません。あなたには大タンテイの天分があるのです」
新十郎は日記帳のその会話のクダリを開くと、一寸《ちょっと》一目見ただけで、おかしくて堪らぬ事を思いだすらしく込上げる笑いをせきとめかね、遂にはハンケチを取出して、涙をふく始末だ。平素の彼らしくないフルマイであった。
「目黒にはタケノコを食いたがる天狗がいるんですッて! 実にどうも、あなたという人は……」
こみあげる笑いの苦しさに、新十郎は両手で胸をシッカと抑えた。
「さて、寺島のトンビの天狗の方ですが、女中の言葉はカンタンながら印象的で、むしろ面白すぎるほどではありませんか。この天狗の習慣は珍ですよ。女中がハナレへタケノコメシを運んで行くと、天狗の先生、毎年決ってトンビをきて黙って坐ってるそうですが、火が
前へ
次へ
全59ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング