が、そしてそれは勘当後に新たにできた特徴で私だけしか知らないものですが、それを申上げるわけにゆきません、ね。お直はこう云ってるのです。私だけしか知らない特徴だと断言してるんです。ただし、それはお直さんがそう思いこんでいることが私たちに分っているというだけで、他人がそれを証明しているワケではありませんがね。とにかくお直さんの言葉は重大なものを暗示していますよ。なんしろ杉代さんの死ぬまでは、加十と杉代の音信の中継所で、おまけに加十の居所を実地に訪ねて会見している唯一の人物ですからね。ところが杉代が死ぬとお直は平作によびよせられて加十との交渉を断つことを命ぜられ、一方、加十からの音信もバッタリ絶えたし、また心配のあまり居所を訪れると、加十は他へ越して行方不明だったそうですね。むろん平作のハカライでしょうが、そこからの結論として一ツ弁《わきま》えておくべきことは、加十の新居と変名は杉代の死後では平作が知っていて、お直は知らないということ。しかし、平作が知ってることは確かだが、その他の誰かが知っていないとは限らない。お直は知らなくなったが、それは他の誰かが知らないという証明にはならない。しかし、
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