があって、そこには確かにいろいろのワケが考えられるではありませんか。あなたは一ツの早合点に気がつくと、にわかに勇気を失ってしまい、他のいろいろのワケをも追求した上で、早合点と判ったものから順に一ツ一ツ取り除いて行くことまで全部やめにしてしまったのですね。せっかくスバラシイ発見から出発しながら」
 新十郎の言葉には、可愛さのあまりに叱るきびしさがこもった。
「さ、これが一ツのヒント。そのあらゆるワケを考えて順に追求して捨てるべき物を棄て取る物を取って進むのが、あなたの新しい出発の一ツ。さて、その次には……」
 新十郎はパラパラ日記の頁をめくって、話につれて一々その箇所を探しだして示しながら語りつづけた。
「魚銀から弁龍和尚の名をきいてまず坊さんを尋ねたのは賢明でした。この坊さんからのキキコミには特に重大なことはないようですが、次に訪れた天心堂以下は次へうつるにしたがって次第に重大そのもののキキコミでしたね。そのキキコミは全部が全部と云ってよいほど意味の深いものでした。あなたはそれを整理して、殺されてバラバラにされたのはトンビの人物、実は加十と結論なさった。まさにそれにマチガイありますまい
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