すが」
 とマッカになってモゴモゴとごまかしたのは実はウソで、焼きたいとは思ったけれども、なんとなく惜しくて焼かなかったのが本当。
 新十郎にたって所望されて、是非なくそれを家から取ってきた。新十郎はそれを受けとって、大よろこび。
「報告書とバラバラ日記はお借りしますよ。あなたは大タンテイの素質をお持ちのスバラシイ方ですね。見かけによらず、日本は人材の国だ。あなたの存在を知って、日本がたのもしくならなければ、その人は目がフシ穴で、頭は大方左マキだ」
 新十郎は楠にこういうお世辞をささやいて、益々楠を赤面させて、消え去った。

          ★

 新十郎がその報告書と日記を返しに来たのは一週間ほどの後である。人気のない別室へ楠に来てもらって、差向いに坐って、くつろがせて、
「あなたはこの報告書の次にくるべき調査をなぜ中止なさったんですか」
「その報告書を書きあげて持参した日に、一人の先輩がふと思いついて、たッた三軒の料亭に狙いをつけて訊いてまわると、三軒とも連日のようにタケノコを使っていたと分ったんです」
 と、その日のことを新十郎に語った。新十郎はそれをきいてただただ呆然また呆
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