なところだ。楠は大いにおどろき怖れ、まさに色を失って混乱し、さてこの三軒をきいて廻ると、まったく先輩の云う通り、これらの料亭では寒中にタケノコを用いるのは別に珍しくないことのようだ。楠はバカ正直に一軒ずつ念を入れたおかげで、ムダなところに手間どり、珍しい材料を用いるのはまず第一級の料亭と誰しも第一感で気がつくことを忘れ、その近所まで近づいていながら、タケノコを用いている料亭に限って訊き落している。なんともなさけないバカそのものの大失敗。人々にどんなに罵られても一言も返す言葉がない。いッそ自殺して自分のカラダをバラバラ包みにしてしまいたいと思い悲んだほどである。
そして、バラバラ事件の調査を進める情念を一気に全部失ってしまった。
バラバラ包みは、その後、三月九日と、三月十五日にも隅田川からでた。
三月九日のは左モモと右の二の腕。
三月十五日のは右手のヒジから手クビまで。
以上でバッタリと新規の発見は絶えてしまって、結局、両眼と右の耳と鼻、左手のヒジから手クビまでと左のテノヒラ、右のスネ、これだけが最後の発見から三月半すぎて真夏がきたが現れなかった。それはもう魚の腹におさまって変
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