ッと見て、石松の相に立ち枯れる若木の相があって身を食い枯らす悪虫が這っていると見てとったから、金を貸してやらなかった。オレに貸せという金が、なんと二万円。こんな借金をあちらこちらでやられては親の迷惑は知れたこと。三百代言のムコがオレを訪ねてきたのも、石松に金を貸してくれるな、それを承知で貸した金は無効、取り立てできない、そういう証文を取り交してくれというタノミだ。諸々方々の鬼の同類を廻り歩いて、こういう証文を取り交してもらっているのだそうだ。どうやら石松も勘当らしいということだ。なア、するてえと、加十の今の身持によっては勘当が許されるかも知れないと人見角造が言っておった。さア、どうだ。三円の見料は高くはなかろう。お前さんの証文が近々息を吹き返して生き返るらしいぜ」
なるほど、そんなワケがあったか、と楠はうなずき、
「で、加十さんの今の身持というのは、勘当が許されそうな身持でしょうか」
「さ、それだな。加十の身持も知りたかろうが、加十がどこでどんな姓名で暮しているか、それさえも親類の者が知らないそうな。杉代が遺言で誰かに加十の居所姓名をもらしているかも知らぬ。もしも誰かにもらしたとすれ
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