か、そんなことも思い当るフシがなく、また気にかけたこともないぜ。政子の奴が今度に限って変に気を廻しているだけだ。もっともアイツにしたところで兄の姿が何月何日から見えなくなったなんて心当りが皆目ないのはオレ同様だ。オレのウチでは自分のほかの人間の動勢や運命を考えないのが常態だな」
「すると、どなたが失踪の日を覚えていたのですか」
「女中の奴さ。周信め、小娘をあやつる名人だから、女中めが惚れてるせいだよ」
明快な論断である。そこでその女中の話を訊いてみると、
「三月十五日の夕方でした。すこし早めに夕御飯を召上っておでかけのままお帰りにならないのです。当日、特に変った御様子はお見かけしません。御飯を召上りながら、この寒いのに一晩の不寝番は利口なことじゃないが仕方がない。カゼをひかないように、せいぜい厚着して行こうと仰有ったのを覚えてます」
ということであった。彼女はお給仕しただけで、彼の出るのを見送ったわけでないから、どんな厚着して出かけたか分らないということだった。わが家へ戻った新十郎は、杉山老女が書いてくれた脅迫状到着の日のメモをしらべた。脅迫は一昨年の十月から始って、毎月一度か、ま
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