内クマなく探しまわった。店の方から持参の日用品とガラクタの類しか現れないが、身体検査で再び久五郎の懐中から三千円なにがしを発見して、
「隠すより現るるはなし、じゃないか。先日の家捜しの時にはなかった三千円だ。してみれば、まだまだ、あるな」
 ジロリと睨んで、三千円を懐中に入れた。彼らは立ち去りかけたが、まだミレンがあるらしく、隣室でごてついて、
「やっぱり、ここにはないのよ」
「じゃア、どこだ?」
「典六。薄々感づいているのは、アレだけよ」
「フム」
 周信は考えこんでいるらしかったが、
「典六が最後にチヂミ屋へ行ったのは、いつのことだ」
「いつが最後とは覚えがないけど、ウチの用でチョイ/\来ていたわ」
「チョイ/\行くようなウチの用がありやしないじゃないか」
「フフ。私に用があったのさ。私のプライベートな部屋へ。今だから、申上げますけど、そんなわけよ。それぐらいのイタズラせずに、あんな埃ッぽいウチに住んでられやしないわよ」
「バカ!」
 周信の怒気は意外にも噛みつかんばかり真剣だった。
「キサマ、典六に喋ったな」
「いいえ。それだけは信じてちょうだい。典六なんか道具だと思ってるだけだもの」
 政子は冷く言い放った。彼らが本当に立ち去ると、小花は溜息をもらした。
「怖しい人たちね。姉さんが坂巻をひきいれてそんなことしていたのを、兄さんは知らなかったの」
「知らぬは亭主ばかり」
 憮然と言葉もない久五郎の代りに、ハマ子がつぶやいた。
「じゃア、女中たちは知っていた?」
「ええ、薄々は。本当に見たのは私だけかも知れないけど」
「あんたという人は跫音《あしおと》がないのね。薄気味がわるい!」
「そうかしら」
 ハマ子は上を向いてフッフと笑った。小花は見るもの間くもの癪にさわらざるはない無念の思い満ち溢れて、
「ねえ、兄さん。乞食男爵一味が狙ってるように、たしかにナイショでお金を隠しておいてるのね。あの五万円といい、今度の三千円といい、あの人たちの云うように、本当はない筈のお金じゃありませんか。それに、私まで貧乏のマキゾエを食わせておいて、私にナイショのお金を隠しておくなんて、卑怯千万だわ。隠したお金をだしなさいよ。その半分は私に下さるのが当然よ。それを持ってこのウチを出るわ。あなた方のオツキアイは、もうタクサンよ。隠したお金をだしてちょうだい」
「隠したお金なんて、もうないよ」
 久五郎は赤らんでうつむいて、羞しそうに云った。小花は怒った。
「ウソです。隠したお金がなければ、兄さんの性分で、そんなに落着いていられる筈はありません。兄さんは、ずるい人ねえ。昔からその正体は感じていたけど、今まではそのたびに否定しようと努めていたのよ。とても利己的で、冷酷なのねえ。そして、とても陰険そのものよ。乞食男爵のような悪党一味だって、一家族の者だけは腹をうちあけて助け合ってるわ。兄さんは、親兄弟をも裏切って自分一人の利益だけはかる人よ。そしてウワベには色にも見せずに、いろいろな企みができる人ねえ。怖しい悪党よ。生れながらにずるくッて、一見薄ッペラなトンマな坊ちゃんらしい外見を利用する本能まで授ってる人だわ。顔をあからめて口ごもるんだって、生れつき授ってる手じゃないの。もうそんなことで、だまされないわ。私だって、いずれ、家探しするわよ。当り前よ。顔をあからめてごまかす代りに、せめて、マキゾエにしてスミマセン、ぐらいの口上でも述べたら、どう? むろん口上ぐらいで、許せないわ。兄さんは乞食になっても、私の生活を保証する義務があるわよ。我利々々のダマシ屋の卑怯ミレンなイカサマ師だわねえ」
 小花は喚きたてたが、久五郎が例の生れながらに授った手という奴で、うなだれて、よわよわしげに侘びしい笑いを浮かべている様子を見ると、ノレンにスネ押しと思ったか、プイと立って外へとびだした。
 そして、どういうことが起ったのか、そのまま家へ戻らなかった。陰鬱な隠遁老夫婦は妹の行方を探したり捜査をねがったりするような生き生きと希望のある人生に縁を絶たれた心境だから、それをそのままほッたらかしておいたのは自然なことでもあった。

          ★

 それから二ヶ月ちかくすぎた日、周信がたった一人ものすごい剣幕でのりこんできて、
「貴様ら、まだ品物を隠しているな。オレには見透しだ。みんな分っているのだ。今度こそは許さぬ。明日は早朝から、何十人の大工やトビの者をつれてきて、天井の板も、ネダも、羽目板もひッぺがして家探しするから、そのツモリでいろ。今度こそは洗いざらい、隠しものを一ツあまさず、見つけだして取りあげてやる。ハダカにして尻の穴まで改めてやるから、風呂につかって垢を落しておけ」
 大入道が火焔にまかれて唸っているような怖しい剣幕でがなりたてて、土を踏みやぶるように
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