方々の部屋をうろついて愉しんでいたハマ子さんがそれを見て、この人も見かけによらぬ鋭いカンと素早い動作にめぐまれているから、あの態度は何かあるなと後をつけて、久五郎さんがあなたの秘蔵品らしい何かを盗んだのを見出したから、我意を得たり、とニッコと親愛の情をこめて笑みを送り、あなたがそれを隠すのは人目につくから私がそれを秘密の場所へ隠してあげましょうという意味とマゴコロをこめて手を差しだす。黙ってただニッコリとほほ笑んで手をだしただけですが、そこに真の情がこもっているから、これ即ち以心伝心ですな。もっとも、これは全部私の想像ですよ。本当にこうだとは申しませんが、こうならなんとなく愛すべき情趣に富んだ一幅の画であるなアと、つまりですね、私は殺されたあなたの兄さんよりも、このノロマの如くで素ばしこい御二方が憎めないのですよ」
 新十郎は暗い顔をそむけた。



底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
   1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第六巻第九号」
   1952(昭和27)年7月1日発行
初出:「小説新潮 第六巻第九号」
   1952(昭和27)年7月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2006年5月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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