めて監視網をはりめぐらしたのは、ある一軒の邸宅であった。そして、その邸内から出てきた一人の若い女が街でさる人物と会って一物を手渡して何事か依頼したのを確かめ、依頼をうけた人物の方を取り押えて訊問すると、予期の如くに総てがハッキリと現れた。彼のうけた依頼とは金品交換の指定日に指定の場所で元子の使者から金をうけとる役であった。彼が渡された一物はまさしく金と交換の元子の恋文のうちの一通であった。
監視網をはりめぐらした邸宅とはチヂミ屋の寮。邸内から出てきた女とはハマ子。
かくて犯人久五郎とハマ子は捕えられた。
新十郎は真相をききに来た政子に語ってきかせた。
「女相撲という一見事件にレンラクしそうもないことを最初に私に語ってくれた人が世捨人の久五郎さんだと気がついたとき、私はビックリしたのです。相当に物見高い血気の人でも女相撲の興行を知らない人が少くないのに、めったに外へでない筈の世捨人が、もっとも、単に女相撲の興行の存在を知ってるだけだと云うなら偶然の然らしむるところと考えられもしますが、ほかの出来事は大がい忘れていながら、女相撲と周信氏の宣言という聯想しにくい二ツの事柄のレンラクだけは妙に記憶していました。これは普通ではありますまい。おまけに調査の結果は女相撲と大宣言とたしかにレンラクがありました。周信氏の大宣言はまさに女相撲の興行の最中でした。しかしながら、もしも更に女相撲と大宣言とに密接不可分の関係があって、たとえば女の横綱が狐の化けた女にだまされて大石を運んだことなぞと関係があったと仮定して、そこから曰くありげな何かが考えられるであろうか。こう考えて多くの場合をタンネンに思い描くと、曰く有りげなものが確かに在って次第に鮮明に浮かびでるのが分ってきました。お宅の女中さんの話によりますと、兄さんは失踪直前の夕食中に今夜一晩は不寝番だからカゼをひいちゃいけないな、厚着しようと呟いておられたそうですね。さて、そこで、その兄さんがこの前後にチヂミ屋の寮に現れたときのことを考えて下さい。これから家探しにとりかかるかと思うとそうではなくて、明日早朝を期し、大工とトビをつれてきて天井もハメもネダもひッぺがして徹底的に家探しを致すぜという大宣言の由でしたね。前もってこんな大宣言をする必要があるでしょうか。まるで、だから、ほかのところへ秘密の品物を隠せ、と敵に都合のよいことを教
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