せておいてユックリ散歩にでました。オルゴールが鳴る以上はこの時間には全作がまだ生きている。だからこの時間以後のアリバイがありさえすれば彼は犯人と疑われる筈がありません。このアリバイに狂いはありッこないのです。なぜなら、彼の予定の時間をずれてオルゴールが鳴るという心配は絶対になかったからです。そんな大胆な確信がなぜ生れるかと申すと、その種アカシはカンタンすぎるのですがね」
 新十郎はドアをあけて一同を部屋の内部へ案内した。卓上に在った物の位置が変っていた。常には寝台附近の別の小卓上のオルゴールが大きなテーブルの上に移され、置時計の位置が反対側に変っている。
 オルゴールのフタの中央についてるカギの孔に糸がむすびつけられている。糸の一端は置時計の踊り子の一人の胴に結びづけられていた。それだけのことだった。
「踊り子がうごきだすと、糸をひッぱる。置時計の直径は八寸ほどありますから、踊り子がオルゴールのフタをあけるには充分すぎますよ。で……」
 新十郎はニヤリと笑って、オルゴールの箱を手にとって、中からスズリをとりだして見せて、
「フタがあいた拍子に軽いオルゴールの箱がバタンと音をたててひッく
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