制した。一同は驚いて静かになった。すると無人の陳列室にオルゴールが鳴っているのがきこえてきた。一回、二回とオルゴールは同じ曲をくりかえしている。
新十郎は云った。
「皆さんは事件当日十一時にオルゴールが鳴ったことを思いだして下さい。そのとき、ここにはナミ子がいました。ナミ子は主人がよんでると思ってドアをあけようとしたが、カギが紛失していました。カギが紛失しているわけですよ。つまり、カギを盗んだ犯人は、陳列室へ忍びこむために盗んだのではなくて、十一時にオルゴールが鳴ってもナミ子が中へはいれぬように盗んでおいたのです。ナミ子がはいると、犯人には困ったことが起ります。なぜなら、オルゴールを鳴らしているのは主人ではなかったのです。主人はそのときすでに殺されていました。ではオルゴールを誰が鳴らしているかというと、それは犯人が鳴らしています。しかし、犯人はこの部屋の中にはおりません。居らなくともオルゴールの鳴る仕掛けが施してあったのです。そのとき犯人はよその部屋にみんなに顔を見せていました。そしてオルゴールが鳴り、ナミ子がカギがなくてウロウロしていることをチャンと心得ていました。充分に人に顔を見
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