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 新十郎は一通りきいて、一通り見て廻って、一応概念をのみこんでから、もういっぺんテイネイに調べはじめた。
 実に珍奇な蒐集品だ。ヨーロッパの品物もある。病人が蒐集品と病める身体とだけで一室にこもって余人をまじえずにカギをかけきって同居生活をしていた心境は異様なものではない。「来い」という合図にオルゴールを用いていたとは、ほほえましい思いつきだ。電気時代の今とちがって昔の呼びリンは伏せた鈴の上のポチを手でチンチンと叩くのが普通であったが、リンのポチを叩くことよりもオルゴールの方がカンタンだ。軽いフタをあければよい。四五分も鳴っている。呼びリンを叩く力はオルゴールの軽いフタをあけるのと同じぐらいの力しかかからないが何回も叩かなければならない。このオルゴールの曲は「ホタルの光」だ。オルゴールは美術品ではない。西洋ではありふれたタバコ入れか菓子入れのような日用品だ。
「オヤ?」
 ネジをまいてオルゴールをかけた新十郎は小さな呼び声をあげで何かを見つめていた。
「病人はオルゴールをタバコ入れや菓子入れに使わずに、スズリ箱に使ったことがあるのかしら? 中にスミのあとがある。しかし
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