いた。元々異様なオトメがそのとき更に異様な表現を示したのはフシギではないが、その異様さはいかにもただの異様さだった。川田の示したものと比較ができてそれが分った。ナミ子は思いだして人々にこう語った。
「殺されてる人のことに川田さまの注意がむけられてたのは一分足らずだったわ。私が気がついたとき、あの方の見ていたのは人ではなくて、人の周囲の物だったわ。殺された人を見ている目よりも真剣に見える目の色だったの。そして、燭台をかざしてグルグル歩いて一ツ一ツ見て廻ったわ。人殺しにとりのぼせて鵞鳥の喚くような声でオイノリしているオトメ婆さんなんてつくづく平凡でダラシがないと思ったのよ。ノッシノッシ一廻りしてきた川田さまの顔は静かなタダの顔でした。静かなタダの顔の怖しさが身にしみたのよ」
 妙子はこの言葉をきいてビックリした。その静かなタダの顔がアリアリと目の前に見えるように思われた。川田は銀行家だ。人殺しも血も墓から掘りだした美術品も人骨も、十円札と同じように一枚々々数えているタダの顔なのだ。
 殺された全作やその弟の大伍は、同じ十円札をかぞえても、銀行家のようにタダの静かさではない。人生万事にもっと
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