を鳴らすだろう。それだけのことだ。シンが疲れきってるから、また眠ったにきまっているさ」
 いっぺんフタをあけると四五分鳴りつづけるオルゴールだから、ネジをまく手間を入れても病人に過激な作業ではない。つづいてオルゴールがならないのは、本当にさしせまった用ではなかったからだろう。云われてみれば、尤もなことだから、ナミ子も落ちつきをとりもどした。
 大伍はイスにノンビリもたれていたが、ふと立ってそッとドアをあけ、跫音《あしおと》を殺して中へはいった。いつもの通り中から一応カギをかけたが、五分ほどすぎてから跫音を殺して出てきて、
「コンコンと熟睡だ。だが、これは何だろう? 北のドアから誰かが一度はいったのかな。特に変ったこともないが、感じが何かをささやくような問題だ。これは伊助の落し物かも知れないな」
 それはツケヒゲのようであった。しかし伊助は来たときもツケヒゲなぞはつけていなかった。
「こんな物が落ちていたのですか」
「マア、マア、気にかけるな」
 大伍は笑って行ってしまった。
 この日はたしかに変っていた。午後になっても、変った訪問者が絶えなかったからである。十二時をややまわったとき、川
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