見込みがないと分った上に、カタにとるとすれば娘のほかに目ぼしいものがないせいであった。ちょうど女房が死んだあとだが、女房なんぞは必需品というわけではない。しかし、とにかく何かカタにとらなくちゃケリがつかないとあれば女房で間に合わすのも時の方便かというようなことらしかった。こういう慾のないヨメ選びにかぎって美人に当るものだという話である。
 しかし、全作は後妻については慾がなかったが、ケチンボー、そして金慾の点では甚しいものだった。
 こういうケチンボーが学問にこって洋行までしてきたとは妙な話である。おまけにその学問が今で云えば考古学というようなもので、全く金慾に縁のないようなことに凝っていた。そのうちに土や石の下から出てくることに変りはなくとも、古代美術に凝りだしたのはようやく本性に目覚めたと云えよう。
 古代美術を俗に骨董という。これはお金モウケになる。全作も西洋流の商法を用いて荒かせぎした。けれども本当に良い作品は人に売らなかった。いったん執着すると大金を投じて惜しまなかったし、秘蔵品を人にのぞかれるのもイヤなのだ。
 病気で起居不自由になって以来、秘蔵品の陳列室へ寝台を運ばせた。
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