名を書きこむようなことは何より怖れつつしむ筈だと思われるからです。しかも定助を私製の明神に仕立ててオーカミイナリと並記しているのですからね。よほどの理由がなければなりません。彼女は定助を神の矢で殺したのが、その矢を使うオーカミイナリではなくて自分の良人であることを承知しており、オーカミイナリのタタリよりも定助のタタリの方を怖れていたに相違ないと思われます。あのイナリは実は定助イナリ明神と言うべきであるかも知れません」
語り終って、新十郎は花廼屋に言った。
「あなたの推理は見事でした。もう一つ裏を返して、天狗の顔の神主以外の者が猿田の面をかぶって道中することも、そこに神の介在を考えさせ、探偵たちの考えが彼から遠ざかるという役に立つ手段であることを考える必要があったでしょう。しかし、とにかく、本格的な着想でしたよ」
花廼屋は喜色満面、いつまでも無言でニヤニヤ笑っていたが、虎之介はむくれて、これも口をきかなかった。
底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第六巻第七号」
1952(昭和27)年5月1
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