く突ッ走れるかよ」
 新十郎は花廼屋に声援した。
「あなたの探偵眼はどうやら田舎通人の域を脱しましたね。調べてみると、天狗の面をかぶった奴が大きに街道を歩いているのを見た人が居るかも知れませんよ」
 賀美村へ戻って記録を集めて調べてみると、定助の屍体のところにあった品々は伊之吉の言った通りの物であった。そして、そのほかの物がなかった。もっともノンキな昔のことだから、それらの品々の行方は分らなくなっていた。
 その日の夜になると新十郎が姿を消してしまった。いつまで待っても帰らない。ところが一同が目をさましてみると、新十郎はチャンと戻っていた。
 一同の顔が揃うと、新十郎はうしろに隠した両手の品々をそッととりだして一同に示した。右手には猿田の面が、左手には神の矢が握られていた。
「狼の足を持たない山の素人が夜の明けないうちにオーカミイナリを往復するのは大そうな重労働だ。全速でやったツモリですが、夜が明けてから二時間ちかくも姿をさらして歩かなければなりませんでした」
 新十郎は笑いながらつけ加えた。
「疲れついでに、もう一度オーカミイナリへ行ってみようじゃありませんか。何か変ったことが起きて
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