私もあなたの仰有る意味のように見たのですが、会葬者も警察もそう見てくれる者がないので、さては私の心の迷いかと、いささかわが身のモウロクをはかなんでいたところです。結城さんがそこを見て下されば、私は確信して申上げることができますよ。トビの者は、たしかに焼け死ぬ者がいない筈だと思いこんでいたのですよ。あの機敏な判断にとんだコマ五郎が火消装束に身をかためて見張っていながら、人の生死にかかわる火勢の判断や助ける時期を失う筈はない。よしんばコマ五郎はこれを山キの覚悟の自殺ととッさに判断したにしても、火消し商売の輩下が何十人と火消装束で身をかためて見ていながら、山キの危険をさとって飛びこもうとした者が一人もないのはフシギだ。ジャンと音をきいたとたんにハネ起きて装束をつかんで走っている江戸の火消人足じゃアありませんか。こうと見てとれば誰が止めようと火の中へとびこむように生れついている勇ましい奴らですよ。親分の指図がないから、人がみすみす死ぬと知って動かないというような、おとなしい奴らじゃありませんよ。その奴らが、焼跡に屍体を見て、オイ、本当に誰かが死んでいるぜ、と怪しんだとすれば、一目リョウゼンじゃ
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