はごまかせませんや。お染ちゃんのほかには女もいなきゃア、仲間もいません。旦那にとってはお染ちゃんだけがかけがえのない恋人。そして、このお加久がかけがえのない親類で親友ですよ。旦那が私に相談せずに、身を隠す筈はないんだけど……」
「お加久さんは秋田生れですか」
「先祖代々の江戸ッ子で」
 新十郎はお染に向って、
「お加久さんのお言葉を信用しないわけではありませんが、旦那はあなたに対してはお加久さん以上に遠慮も気兼ねもなかったと思いますが、なにか身にあまる不安がおありで、それが思わずふともれるような御様子は見えませんでしたか」
「見えませんでしたねえ。いつも陽気で、明るくッて」
「大旦那が生きながら葬式をなさることについて、どんなことを仰有ってましたか」
「木場の旦那らしい趣向で、結構だと、大そうほめていましたよ。木場のお金はそんな道楽に使うものだ、なんて、ウチの旦那もそんなことがお好きな性質なんですね」
「重二郎さんがここを最後にお立ちになったのは?」
「お葬式の三四日前ですね。それが済むまで忙しくッて、ちょッと五六日はぬけられそうもないなんて、そう言って出て行きました」
 妾宅での質問
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