ゲキョウ」
 どッと念仏やお題目の声があがって、坊主の読経を消してしまった。
 六尺の余もある縁の下にギッシリとつめた枯れ柴だから、火がまわると物凄い。パチパチと火のはぜる音。やがて、ゴウゴウたる火勢の音。火の音に負けまいと期せずして高まる念仏の音。各々が一つずつのかたたまりとなって、互に敵音を打ち消そうと、もみあい、くみあい、ひらめきあがる。
「もう、そろそろ出てこなくッちゃア……」
 と、虎之介はジリジリしはじめた。もちろん、これだけの趣向をやる仁だから、舞台効果を考えているのは当然だ。相当に火がまわってから、赤い頭巾にチャンチャンコ、ヒョッコリ生きて現れるところに値打があるのは分っているが、そろそろ出てこなくちゃア出おくれてしまう。と、一陣の風と共にどッと燃えあがった火焔。一時にダビ所をつつみ、火勢あまって赤い舌は大地をたたき、甜《な》めるように地面を走った。
 風が落ちてみれば、まだ火は縁の下の上方にはかかっていないが、火勢に追われて、逃げまどった坊主の一団から騒ぎが起った。
 足もとのたしかでない老師は逃げおくれでアタフタしたあげく、ようやく他の坊主たちに抱かれて退いたが、ふ
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