かという想像によるのであった。すべては想像で、確証はない。
 警察がこれを探り当てたのは、船頭舟久によるのである。舟久はすすんで秘密をうちあけて、
「私がこんなことを打ち開けるのは、先代のコマ五郎にカリがあるからでさア。先代には恩義をうけましたなア。キップのいい男だった。恩人が隠したがっていたことを打ち開けるのは悪いようだが、今となっては、そうではありますまい。あの時は隠す必要があったが、今はそうじゃないねえ。放ッときゃア、誰か悪党が山キの子孫を根だやしにして、山キの屋台骨を乗ッとるか、叩きつぶすかしようてえ悪企みがあるところが、山キには、世に隠れた子孫があって、これにコマ五郎の息がかかっているてえことが世に現れてごらんな。悪企みをやってるのがどこの悪党だか知れないが、これが世に現れると、コマ五郎が相手じゃアちょッと山キを叩きつぶすのは容易じゃない、やめとこう、ということに気がつきやしないかねえ」
 これが舟久が秘密を打ちあけた言い分であった。この舟久はすでに八十に手のとどいた老人で、先代のコマ五郎という人物が生きていれば、ちょうどこの年配に当るのかも知れない。
 だが、舟久がこう云ってすすんで秘密をうちあけたときの目つきを見ると、この老いぼれも曲者だぞ、と気のつく者もあった。八十すぎの老いぼれだってモーロクジジイとは限らない。他のことには枯れて邪念のない心境になっていても、一生深く根を結んでいるこれ一ツという妄執だけは益々深まって、その妄執の鬼のようなジジイができあがることはあるし、モーロクして世間への気兼ねを失うにつれて悪企みだけは益々誰に気兼ねもなくマムシの巣のようにもつれた妄執でこりかたまったジジイも居るものだ。
 舟久の言いたてている表向きの理窟にはおよそ信用できないぞと気づいた人は少くなかった。ひょッとすると、コマ五郎一家に根の深い恨みがあって、喜兵衛の隠れた長男がコマ五郎の手で処置されたという秘密を知らせる目的は、山キの孫を殺した犯人が世間の知らないところに居る。コマ五郎一家というちょッと手のつけにくいところに秘密がある。そこを探せ、という謎をかけているようにも思われた。
 ともかく、喜兵衛には結婚前にできた長男があったという意外な事実が判ったことは収穫であったが、実はそれによって謎が深まるばかりで、一向に謎をとくことができない。その隠し子が誰であるか
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