》宇佐美通太郎と共に馬車を急がせて、広大な大伴邸へのりつけたときには、叔父の大伴晴高が小村医師と共に兄の隣室にションボリしていただけであった。
「お兄様の御容体は?」
 克子がせきこんで尋ねるのを、晴高は手で制して、
「静かに。静かに」
 なすところを失うほど困惑しきっている様子であった。
「そんなにお悪いのですか」
「生命の危険はとにかくとして、カンがたかぶっているのでなア」
「お姉様がつきそってらッしゃるのですか」
「イヤ、イヤ。誰もつきそっておらぬのじゃ。つきそうと、カンがたかぶる。ただ、克子に会いたいと云われるので、そなただけが、あるいはと思うて。ま、かいつまんで御容体をお話し致すから、おかけなさい」
 克子を椅子にかけさせて、叔父は小村医師の顔を見ては助言をもとめながら、だいたいの経過を語ってきかせた。
 宗久が発作を起して倒れたのは、克子が結婚して六日目にも、一度あった。そのとき宗久はウワゴトの中で、
「そこにいるのは、誰だ!」
 時々あらぬ方を見て、そう叫びだしたが、そこには誰も居らず、常に何か夢に脅やかされているようであった。
 二日ほどで発作は落着いた。その後、シノブ
前へ 次へ
全88ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング