うけるイワレは何事によるのであろうか。
一人ずつ現れた時と、三人同時に現れたときに、他の人々には分らないが義兄にのみはその意味が分り、そして大きな衝撃を与えるイワレをもつ何かの変化が巧妙に施されていたに相違ない。
しかし、そのような衝撃を加えるものとして、また他の人々には気附かれない変化の上に施されたものとして、どのような事実の存在を考えうるであろうか。
三人の位置か? 順か? 服装か? 表情か? あるいは義兄の混乱が三人の女の姿を認めたためと見せかけて、実は三人の女のほかに、他の重大な誰かの姿を認めさせたのであろうか。
通太郎はその疑問を克子に訊きただしたが、それに対して克子は答うべきものを殆ど持ち合せていなかった。彼女の注意は、ひたすら兄を案じる不安の故に、兄の姿の上にのみ主としてそそがれていたからであった。
彼女はしかし思いだそうと努力してみたが、力がつきて、
「そればかり見ていた筈の兄上のお姿まで、アリアリと順序正しく思いだすことができないほどです。三名の婦人は姉上、キミ、カヨの順に現れて、またその順に一しょに並んで立っていたと思いますが、確かではありません。服装は、
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