たような直覚がないかと云えば、ロッテナム美人館の扉ボーイの指が三本だったという発見がある。あなたはその発見が三の謎をとく神のお告げと見たい気持をもっている。分身の直覚は当然すぎるために思いだせないほどであったが、三本指の方は思いだせないどころか神のお告げと見たいほど曰くありげに思われていつも心にかかっている。一見二ツはアベコベのようだけれども三の数の謎をとく神のお告げと見たいほど曰くありげに思われるということは、実は前者と同じように平凡で当然な真理であると確信したいこと、否、すでに確信していることの証明だ。あんまり当然で思いだせないのも、あんまり当然な真実を衝いているためにいつも気にかかっているのも、結局同じ根から出て一見アベコベをさしているにすぎない。あなたは三の謎をとく大切なカギを握っていながらその自覚を忘れていたから、その自覚を与えるために神のはかりたもうたカラクリが、分身の直覚を忘れるという出来事であったのかも知れぬ」
そこで通太郎は生き生きと結論を叫んだ。
「さア、我々はこの困難な仕事に自信をもってとりかからなければならないぞ。ロッテナム美人館の黒ん坊の扉ボーイの指が三本であったという発見が、三の謎の秘密を解いているとは、いかなる意味によってであるか。黒ん坊の三本指がいかなる理由や力によって兄上の幻想を支配するに至ったか。この方程式をとくのは困難な仕事のようだが、謎のカギがこの方程式の中に必ず実在していることはすでに確信できるだろう。あなたのマゴコロと、その心の位置の正しさによって、あなたの直観が神のように秘密の真相に迫っていることを僕は信頼できるのだ」
そこで通太郎は一室に閉じこもったり、克子とともに論じあったりして、一途にこの不可解な三本指の方程式の解明にかかりきったが、いかにして黒ん坊の三本指が宗久の幻想を支配するに至るかは全く雲をつかむのと同じことでしかなかった。
「そうだ。僕が自分の手でいくらいじってみても答をひきだすことはできまい。きくところによれば、結城新十郎という人は紳士探偵と評判のように、名利にうとく、ただ正義を愛するために犯罪を解く人であるという。若年ながら古今東西の学に通じ、推理の天才であるというから、この人に判断をたのむことにしよう。あなたも同道して、見聞の総てを直接物語って判断を仰ぐことにしよう」
こう約束して新十郎の住所を
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