重たかろう」
まさにベク助の心臓を突き刺す一言。人殺し、牢破りの兇状もち大工の新八の取り換えのきかないのが脊中の皮だ。ガマと自雷也、天下一品とうたわれたホリモノ。今では天下一品がうらめしいのである。これあるためにベク助になりきれないのがうらめしい。
大胆不敵のベク助も色を失ってキッと立つ。自然にノミをつかんで構えたが、五忘はそれを見てカラカラと笑い、
「坊主首をたッた一つ斬り落して元も子もなくしちゃア合うめえやな。ときにベク助朝臣と見こんで頼みの筋があるが……」
相手の腹を読みきっておちっき払った五忘の様に、ベク助も殺気を失ってしまった。
★
氷川の海舟邸から遠からぬ田村町に、島田幾之進という武芸者が住んでいた。
彼がここに道場をひらいたのは五六年前のことであるが、その前身に白頭山の馬賊の頭目だという人もあれば、シナ海を荒した海賊だという人もある。
彼の住居と道場の建設には平戸久作という人が当り、それが完成すると、島田一族三名が手ブラで越してきた。ただ一ツたずさえてきた皮の行嚢《こうのう》の中に黄金の延棒が百三十本ほどつまっていたという話が伝わってい
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