でオシだから、メクラの私には知りようがありませんでしたねえ。たしか金三さんの話ではベク助のツンボとオシはニセモノだてえことでしたよ」
「それは確かにニセモノだそうだよ。ところでお紺が父と兄を手びきしたような気配はなかったかい」
「そんな気配はメクラの私には分りませんねえ」
新十郎の訊問はそれで終りであった。
新十郎はなお数日出歩いた。そして彼が犯人を指名する日がきたのである。
★
婚礼の夜の出席者が全部道場に集っていた。新十郎は花廼屋と虎之介のほかに、三名の警官を伴ったにすぎなかった。
新十郎が一同に着席を命じ、一座のざわめきが静まったとき、島田幾之進の隠し持った短銃が突然金三の耳もとで発射された。金三はとび上った。
新十郎はニッコリ笑っただけだった。そして静かに警官に云った。
「ツンボのフリをしていた男が犯人ですよ。ホラ。私の言うことがよく聞えると見えて、逃げだしましたよ」
逃げたって錬達の門弟にとりまかれていては五歩と動けるものではない。金三は捕えられて、警官にひかれて去った。
新十郎はうちとけて、島田道場の一門に対した。
「お吉のおかげですよ
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