とで残り物の酒肴をいただいて酩酊しましてからはよく覚えがありませんが、金三さんもお紺さんもオシのことで、酔っぱらうと、ワアワア唸るのがうるさくてねえ」
「オヒラキになったのは何時ごろだね」
「八時ごろだとか皆さんが言っていました。私が酔っぱらって、うたたねして、起きてウチへ帰ったのが十二時ごろですが、そのときは金三さんもお紺さんも銘々の部屋で大イビキでねむっていました。オシのくせに、二人はひどい大イビキでねえ」
「その晩お風呂はあったろうね」
「それは祝言ですから、お風呂をたかないはずはありませんねえ。けど、私はお風呂はいただきません」
「酒宴の最中に風呂にはいった物音をきかなかったかね」
「お風呂は道場の方についていて、台所から離れているから、物音なんぞきこえません」
「お料理を作っていたのはお紺かい」
「いえ。料理屋の仕出しですが、お手製のものはサチコさまが主に指図してお作りになっていたようですよ」
「お前は山本定信さんのお邸にも出入りするそうだね」
「ええ。時々もみ療治にあがります」
「お前は大工のベク助を知っているかえ」
「ええ。そういう人が居たてえことは聞いてましたが、ツンボ
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