は何事も語らないから、他出の目的は分らないが、彼が憑かれたように熱中していることだけは確かであった。
「紳士探偵もボケたなア。犯人は島田三次郎。三尺足らずの小人で武芸達者なら、これにきまったものだ。オレが真犯人をあげても良いが、せっかく売りだした紳士探偵の顔をつぶすのも気の毒だなア。ハッハッハア」
と虎之介は大きな両腕でヘコ帯の前を抑え、肩をゆすって呵々大笑した。
花廼屋はブッとふきだして、
「相変らずの石頭だなア。尊公は。三次郎が盗ッ人を殺すワケがあるかえ。当身《あてみ》で倒す腕もある。まして祝言の当夜だぜ。石頭には人の心が解けないなア。人の心には曰くインネン故事来歴があって、右が左にはならないものだぜ。ちとオレの小説を学ぶがいいや」
「ハッハッハ。貴公の犯人は誰だえ」
「まだハッキリとは云えないが、とにかく、これは女だなア。お家の大事と思い乱れて逆上する。女の心てえものが、この謎をといてくれるな」
虎之介はゲゲッとふきだすと腹を抑えて、しばらくバカ笑いがとまらなかった。
★
島田幾之進とは何者か。平戸久作との関係は? 新十郎は石橋をたたくように一ツ一
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