明治開化 安吾捕物
その十三 幻の塔
坂口安吾
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)朝臣《あそん》だなア
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「なア、ベク助。貴公、小野の小町の弟に当る朝臣《あそん》だなア。人に肌を見せたことがないそうだなア。ハッハッハア」
五忘にこう云われて、ベク助は苦い顔をした。イヤなことを云う奴だ。この寺へ奉公して足かけ四年になるが、五忘の奴がこう云いはじめたのは今年の夏からのことである。そのときは、
「貴公、めっぽう汗ッかきだが、肌をぬがねえのがフシギだなア」
「ヘッヘ。お寺勤めの心掛けでござんしょう」
「ハッハ。それにしちゃア、毎晩縁先からの立小便はお寺ながらも風流すぎるようだなア」
なぞと云っていた。
肌を見せてはならぬ曰くインネン大有りのベク助だが、まさかその秘密が見ぬかれたワケではあるまい。
とは云え、この寺の奴らときては油断のならぬ曲者ぞろいだ。
今はなくなったが、芝で七宝寺といえば相当な寺であった。ところが、維新の廃仏毀釈に、この寺が特に手痛く町民の槍玉にあげられたが、それは住職の三休が呑む打つ買うの大ナマグサのせいであった。
けれども三
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