から、口中に土がつまったり、右腕が折れたりしたのでしょう。コモに包んでから、花房のタビをぬがせて、炭焼小屋の中にすてられていた古いワラジをはかせた。それはオタツが花房の習慣を知らないからで、谷へ降りたと見せかけるには当然誰にでもワラジをはかせる必要があると考えたのでしょう。ガマ六もワラジをはいていた。花房でも誰でもワラジをはくのが当り前と、そこは田舎者ですから自分の生活の常識通りにワラジをはかせた。質屋の倅の犯行でないこと、田舎者の犯行だということは、これで殆ど察しがついたのですよ。オタツは怖しい女ですね。ガマ六を殺して以来、持って生れた妖しい毒血のようなものがうごきだしたのでしょう。男と一夜のチギリをむすんで殺す。生きたままコモ包みにして牛の角で殺す。そういう殺し方でないと満足できないような妖しい気持が生れたのでしょう。犯行が分らなければ、さらに里へ進出して、見知らぬ男にハダをゆるしてはムザンな殺人を犯したろうと思いますよ」
そこまできけばタクサンだった。虎之介は海舟のおどろくべき心眼の鋭さを思い知り、氷ヅメにされたように力を失ってしまった。
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