でいるのだから、本来の名探偵とは違う。けれども甚だ退屈しているから、村に事あればジッとしていられずヤオラ起き上って指図をやきたがるが、根がタンテイの才がないから悪賢い犯人はつかまらない。彼がまだ生れないうちにこの怪事件が起ったのは下曾我村の慶事であった。
 轢断された屍体は首と胴と両脚とがバラバラになって翌朝発見された。轢断した汽車の運転手から報告がなかったから、何時の汽車にやられたのか、電話もない時世のことで、それを調べるだけでもヤッカイなことである。とにかくバラバラの屍体のころげている方向によって、下りの汽車がひいたことだけは分っている。下りの夜汽車は国府津発午後七時十分という神戸行が一ツ。そのあと貨車が一度通っているだけだ。
 調査の結果、神戸行の客車の方だということが車輪の血シブキで分ったが、この運転手は非常に臆病な男で、いつ轢いたか、知らぬ存ぜぬで押し通してしまった。ガタッという大きなショックに、見習いのカマタキの少年が、ハッと運転手をふりむいて、
「なにか、ひきましたぜ」
 ときくと、運転手は言下に強く否定したが、その顔はまッ蒼だった。それから神戸へ着くまでというもの、少年
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