たわけではないが、人々の話を綜合したところでは、好男子で、無口で、陰気な男だが、田舎娘や女中などをまるめこむには特別の技能があるという。非常に利口で、全てにつけて考えが行き届いているが、痩せ型で至って非力な男だと人々は云っている。ところが、こうと思いこむと執念深くて、必ずやりとげるような根強い実行力があり、人々に、否、ガマ六のような腕ッ節の強い、世渡りに自信のある老獪な渡世人にまで、怖れられていたという。
この事件がもし他殺とすれば、非常に腕力を必要とする。ガマ六のような腕自慢を一人で倒すには余程の力が必要であろう。
誰の目にも非力であると云われる質屋の倅がガマ六を倒しうるか。彼には欠けた力を補うに足る才の力があるらしい。
けれども、ガマ六のような強力な人物を策によって力に代え、これを殺しうる方法がありうるであろうか。しかも、ガマ六が鉄路に横たえられて汽車にひかれたのは日がくれてからたった四十分の後である。
その近くに彼の根拠地があれば話が分るが、そのへんはすべてを暗《そら》んじている菅谷の城下お膝元、自慢ではないが、自分の土地について、自分の知らないことを人が知っているような
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