人にイヤガラセや辱しめを与えたりする。また先輩女中のハツエがこれ幸いとそれをたきつけるようにする。多津子は父母にせがんで、貧乏士族の娘の佐和子というのを女中にやとってもらい、それを自分たちの小間使いにして、
「佐和子は士族ですから佐和子に私たちの身のまわりを見てもらいます。ハツエも町家の出だからまアよろしい。お前方二人は乞食の子だから、穢らわしいから私たちのお部屋へはいらないように」
折にふれて、こう云う。大学生の由也は先妻の子だが、兄が三枝子やオソノに用を云いつけるのにもヤキモチをやいて、兄がそうしないように中傷したり二人にシクジリをさせるような陰謀をたくらんだりする。三枝子は重太郎の妹。兄は乞食部落に住んでいるが、没落したとは云え、歴とした旗本の子孫だ。その旗本というのがシャクにさわるから、これも乞食の妹ときめている。
今村夫婦は一応それをかばうように取はからってくれもするが、実はやっぱり旧弊が身についているから、先祖代々の乞食の娘ということに色目をもっていることは、当人が何よりそれを感じ易くて、三枝子とオソノはまだ子娘ながらも今村カメ女必ずしも奥ゆかしい超俗の詩人にはあらず、
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