ていたのだ」
今度は要心して、その当人や当の店の者に直接会って話をきかなかった。今度はそのために、また失敗してしまったのである。
遠山はまったく元気を失い、次の非番の日にションボリ重太郎に報告した。重太郎は彼を慰めて、
「こうなれば仕方がない。とにかく張りこんで由也の遊ぶ現場をつきとめましょう」
「イヤ、イヤ。もうダメです。由也の父母はすでに三四日も前に旅から戻ってきました。彼は今までのように大ッピラに遊べなくなったのです」
「しかし、今回両親が不在になるまでは外泊したことがないというのだから、彼の特別な遊ぶ方法があるのでしょう。それを突きとめるのは、むしろ重大と思いますが」
「なるほど、それもそうだ。それでは行ってみましょうか」
そこで二人でまた熱心にきいて廻ると、また三日かかって判った。由也らしい男は、時田と一しょでない時は、「カネ万」という小さな料亭で女をよびだして会っていたという。そこで二人はその料亭へ行って訊くと、
「ええ、そうですよ。母里さんは三月ごろからここへ来て女の方をお待ちになりましたよ。たいがい日曜日ですけどねえ。決して夜間にいらしたことはございませんの。女の方というのは十七八、すごい別ピンさんで、全然水商売の女じゃありませんとも。芸者? とんでもない。それどころか、女の方はヤソ教の信者ですとさ。教会へ行くのを口実にアイビキなんですとさ。チャッカリしてますよ。当節のハイカラさんはね。いいえ、二人が連れだっていらしたことはございません」
聞く重太郎は奈落へおちる如くである。三枝子とオソノは毎週の日曜に教会へ行くことができないから、代り番こに、隔週の日曜に教会へ行く。彼女ら二人揃っては行かれないのだし、重太郎も近ごろはもう教会へ行かれないほど毎日が多忙であった。三枝子が教会へ通う前後の行動は誰にも分らないのだ。
実に何たる事か。井戸に細工を施したのは二人組の男と判って妹の無実を明かにする日は近づけりと思っていたのに、妹が無実どころか、由也のアイビキの相手らしいとは。さすれば由也にカラクリを施した形跡があっても、その企みの相棒の中には三枝子も含まれているであろう。井戸の中からその屍体が出ないも道理。由也としめし合せてどこかに隠れているのであろうか。さすがの重太郎も、ここに至ってにわかにガッカリしてしまい、
「こうなっては、もうダメです。わが妹
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