ッとすると左近の顔は死んでいるのかも知れない。あの薄笑いをはいでみると、左近の顔の死相がハッキリとして、そっくり死神の顔かも知れない。薄笑いはその上にひッついて、影を落したように、ジッとしているように見える。なんという病気なのだかとても見当はつけられないが、その薄笑いが彼の満身にジッとそそがれて、その冷さが満身にかゝっているのである。
志道軒は油のような暗いモヤがたちこめた夕暮れの墓場に坐っているような気がした。あの人間は誰だろう? あの人間の膝の下にも、自分の膝の下にも草が生えているように思われる。あの人間はオレに何を告白させようというのだろうか。それから、どうしようというのだろうか。志道軒はその薄笑いで首をしめられるような気がした。彼は必死にその薄笑いに目をすえて、
「そう大それた慾ではございませんが、一万円もあれば、一流地に待合、カッポウ旅館のようなものをやってみとうございます。お宝がありさえすれば、モウケの確かな商売はあるのですが、目のきく者にはお宝が授かりません」
「一万円、かしてやろう」
薄笑いが、そう言った。いったい、それが、言葉というものなのだろうか。その言葉にも病
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