フーテンというのが奴メの病気に当っている。この反対に発陽性フーテンというのが、まアいくらかオレが近いかも知れんな」
と苦笑にまぎらして、二人の会話は終りをつげたのである。
ところが、その晩、光子は珍しく祖父の居間へよびつけられた。一対の燭台をはさんで、この怖しい覆面の人物と相対するのは、それだけでもすでに半ば喪失しかけているような心持であったが、彼女が詰問をうけたのは、英信が彼女に語った言葉についてであった。祖父の言葉が叱責の語気であったとも思われないが、狎《な》れることを許さない語気ではあった。光子の身も心も凍りついて、心の自由の展開がまったく封じられていたのは云うまでもない。彼女はありのままにすべてを語った。それを祖父がいかなる感情で受けとったかは、覆面のため一切知ることができなかった。
「風守について知りたがることは、今後は慎むがよいぞ」
祖父はきき終って、そう訓戒した。しかし、それで終るかと思うと、そうではなくて、
「だが、お前が風守について好奇心を起すにはイワレがあろう。なぜ風守の暮しぶりが知りたかったか、そのワケを語ってごらん」
覆面の奥にある目がどんなふうに光って
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