とむれば、チッポケなかびくさい系図にとらわれた氏族の罰さ。眼《マナコ》を天下に転じて歴史の示すきびしい実相をみる目を忘れた罰なのだな。寛永寺へたてこもった乱暴者が、逃げるに際して御苦労なことに権現様の木像を背負い十字にからげて担ぎこんだ男がいたぜ。そんなものを、どうするのだえ。フロの焚物にするがいいや、と云ってやったら、刀をぬいて斬りこみそうな剣幕で怒りやがった。律儀や忠義をやるにしても、実役にたつことをやるがいいや。こういう役にも立たぬ律儀が万事につけて無役《むえき》な悲劇を生むものだ。私もそれをやります、と虎の顔にも書いてあるぜ。血相かえてシクジリをやらかして、忠君愛国と称し、仁義孝行と号して、地獄へ落ちると書いてある。充分に慎しむ心を忘れちゃいけねえや」
虎之介は内々気をわるくしてうなだれたが、なんとなく図星のようで、イヤな気持もするのであった。
底本:「坂口安吾全集 10」筑摩書房
1998(平成10)年11月20日初版第1刷発行
底本の親本:「小説新潮 第五巻第九号」
1951(昭和26)年7月1日発行
初出:「小説新潮 第五巻第九号」
1951(昭和26)年7月1日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:松永正敏
2006年5月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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