のお米《ヨネ》が別して正二郎をもてなし、両親もそれを認めている様子が、一そう彼の旅愁をなぐさめたのである。
 イタチ組の悪業にたまりかねた町の人々は寄々相談のあげく、この町の船主の中で誰よりも太ッ腹な人物で通っている一力丸の主人、兵頭一力親方の犠牲に仰ぐことになった。そこで一力は一艘の持船を仕立ててイタチ組を松前へ追ッ払うことになったが、海上で面倒が起ると困るから、船頭にまかせず自ら乗船して指揮をとることとなる。出発がきまったから、正二郎は松嵐の店を訪ねて、長々お世話になりましたが、いよいよ松前へたつことになりました、と挨拶すると、お米に目顔でサイソクされて顔を見合せていた両親。やがて父の清作が態度を改めて、
「追われ追われて北の果まで逃げても、逃げきれるものではない。あの連中に別れてこの土地に住みついてはどうだね。お前さんがその気なら、娘の聟にもらってもいいが」
 と云う。
 そこで正二郎も考えた。今さら江戸へ戻ることもできないが、さればといってイタチ組と一しょにいる限りは、およそ性に合わない無銭遊興、押込強盗、ヤケ酒の生活から遁れることができない。末はどこかで窮死するか殺されるか、
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