をおろして一時に人通りがなくなったそうだ。イタチ組というのは彼らのことである。彼らは江戸をたつころは河童《カッパ》隊と自称していたそうだが、奥州へ来て、妙なことに気がついた。河童の神通力には北限があるのである。南へ行くほど河童の神通力は絶大で、九州の伝説では孫悟空ぐらいの威力があるが、中国、近畿、中部地方と北上するにしたがって猪八戒《ちょはっかい》以下になり、関東あたりから急速に下落して、奥州へくると、全然河童には神通力がない。奥州でカッパというと、水中のガメ虫、ゲン五郎といって水中を泳ぐ金ブンブンのような昆虫がいるが、河童というとそれぐらいの哀れな存在になってしまう。河童の神通力にも北限があると知って彼らも改めてわが身の無常を感じたが、さらに北へ北へと逃げる身には都合がわるいから、イタチ組と名を変えた。最後の屁でごまかしながら威勢よく逃げようというシャレでもあった。
酒屋へ使いに出されるたびに、正二郎が好んで行くのは「松嵐」という清酒の造り酒屋であった。なぜなら、この家だけは小心者の正二郎を憐れみ、彼を彼の一味とは別の人種として取り扱い、いたわってくれるからであった。この家の一人娘
前へ
次へ
全44ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング